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本の感想などをつらつらと。


by nino84
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『神曲 地獄篇』

『神曲 地獄篇』(ダンテ、平川裕弘訳、河出文庫)を読みました。

1300年春、ダンテは詩人ウェルギリウスに導かれ、地獄を旅する。地獄の門をくぐり、9つの圏谷(たに)をめぐる。その中で、彼は現世で罪を犯した亡者たちをながめ、鬼たちをみる。


誰もが知ってる長編詩、『神曲』を読み始めました。河出文庫から、地獄篇、煉獄篇、天国篇の3分冊で順次刊行されるようで、現在2巻の煉獄篇まで店頭に並んでいます。読みたい作品ではあったものの、なかなか敷居が高くて取り組めなかったのですが、この新刊行の機会にと思い、読み始めました。
実は、カバー絵に引かれて買った部分もあります。表紙のルカ・シニョレルリの絵が綺麗です。

さて、そんな『神曲』ですが、まずは1冊、地獄篇を読み終わりました。一度にまとめて書いてもいいのですが、いかんせん作品が長いのです。そのため読む時間が掛かりそうでしたので、忘れる部分が大きいかな、という恐れから、1巻ずつまとめておこうと思います。

地獄篇では、ダンテがウェルギリウスと出会い、彼とともに9つある地獄の圏谷を巡り、地獄を抜けるところまでが描かれます。ちなみに、『神曲』は、あくまで詩であって、地獄篇は34歌からなります。詩であることから、言葉や表現にキレがあり、次々に場面が展開していくと同時に、それぞれの場面が印象深く描かれています。
詩の訳出モノということですが、原作の読めない私は、日本語版がどれほど原作の雰囲気を伝えているのか分かりません。ただ、非常に平易な言葉でかかれており、しかも〔〕書きで、語句が補われており、非常に読みやすくなっています。個人的には、意味がわかることと、とっつきやすさが重要であると思いますから、読みやすさを意図されたこうした訳出は、非常にうれしいものです。

閑話休題―。本作は、ルネサンス期に描かれた作品ということで、当時のイタリアの有力者が登場するのと同時に、古代ギリシャ・ローマ時代の著名人が次々とあらわれてきます。ダンテは、案内役のウェルギリウスをはじめ、地獄の第1層、辺獄(リンボ)では、ホメロスやプラトン、アリストテレスらに出会います。そして、そうした出会いを繰り返し、地獄をくだっていき第9層では、ブルトゥスなどの姿を見ることになります。
それにしても、まずは地獄の説明をすることにしましょう。地獄では、人が生前に犯した罪によってそれぞれの居場所が決まり、より重い罪を犯した魂がより下の層に送られます。辺獄には、善良だがキリスト教の洗礼を受けなかったものたちが送られます。それより下層では、ミノスの判決により、第2層には肉欲の罪を犯したものが、第3層には大食のものが、第4層には吝嗇家と浪費家が、といったようにそれぞれ送られているのです。そして、それぞれの層では生前の罪に応じて―目には目を歯には歯をの精神に則って―亡者が永遠の呵責をうけているのです。

地獄の第1層の罪を見ると分かるかと思いますが、この作品はキリスト教の世界観が色濃く反映されています。キリスト教の洗礼を受けなければ、それだけで罪であるのです。すると当然、キリスト以前の者たちは地獄に送られることになります。また、第5層には街が登場しますが、その街のシンボルはイスラム教の寺院であるモスクの形をしています。徹底して、キリスト教中心の世界を描いているのです。
その一方で、ダンテは案内人にウェルギリウスを用いるなど、古代のギリシャ・ローマの人々への尊敬の念ももっているようです。それはまさしくルネサンスの精神といえるものでしょう。
古代ギリシャ・ローマ文化の取り込みは、そうした人々の思想だけでなく、その神話さえも取り込んでいます。例えば、先のミノスは、古代ギリシャの神話に登場する牛頭人身のもののけですし、第3層に登場するケルベロスもやはり古代の神話に登場する怪物です。ダンテは、そうしたものを取り入れながら、最下層に座するベルゼブルはじめ、聖書に登場するものたちも描いてます。キリスト教文化と古代ギリシャ・ローマ文化を統合して地獄というひとつの世界を描き出すことができているのではないでしょうか。

これほどに構成的な地獄を思い描き、それに加えてそれぞれの層で印象深いエピソードを残していくということで、一読しただけで多くの要素を感じられる作品になっています。そして、そうした多くの要素が感じられながらも、先述のとおり文章は―訳出の影響がありますが―スラスラと読める平易さをもっています。全編を通してだけでなく、ピンポイントで部分的に読み返したくなる作品になっています。
by nino84 | 2009-02-09 00:27 | 読書メモ