本の感想などをつらつらと。


by nino84
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『Op. ローズダスト』

『Op. ローズダスト 上・中・下』(福井晴敏、文春文庫)を読みました。

赤坂フォルクスビルの地下駐車場の爆破事件。その被害者はインターネット財閥とよばれるアクト・グループのグループ会社の管理職であった。公安4課に所属する並河は、現場に出向き、市ヶ谷に所属する青年と出会う。彼らは爆破事件の犯人を追う。


『神曲』を一旦読み終わり、次はこれ。というわけで、福井晴敏さんの長編小説です。文庫化されたので、上・中・下の三分冊になりました。『亡国のイージス』あたりからでしょうか、相変わらず長いです。長いのですが、展開が早く、山場も多く用意されているため、どんどん読み進めてしまいます。

さて、今作は日本の首都東京を戦場に、テロリストと警察、自衛隊の面々が戦いを繰り広げるという作品です。作品としては『川の深さは』から続く、日本を舞台に警察、自衛隊が奮闘するという同じ形の作品ということになるでしょうか。世界観は、『亡国のイージス』までの一連の作品とつながっているような、いないような、という様子です。ダイスとよばれる防衛庁(作品発表当時は未だ防衛庁だったため)の非公開組織が登場したり、その連隊名に729という如月行(『亡国のイージス』の主人公)のIDが使われていたり、Tプラス(『亡国のイージス』におけるキーアイテム)の名前が登場したりするくらいでしょうか。登場人物は、覚えている限りにおいてはかぶっていないように思います。いずれも『亡国のイージス』までの一連の作品ほどには物語の核心に関連はありません。『亡国のイージス』における辺野古ディストラクション(『Twelve Y.O.』で描かれた事件)ほど深く関連してはいないため、全く気にせずよむことができるでしょう。福井さんの他の作品を知っていれば、ニヤリとできるかとは思います。
今作の舞台はいよいよ、町中、東京の臨海副都心ですし、相手はテロリストということで、時勢柄もあり、いままでの作品以上に、日本で戦争だ!という雰囲気が伝わってきます。フジテレビがどう、とか青海埠頭がどうといわれると、想像しやすいというのが大きいのだとも思います。あと、個人的には、「After」でのフジテレビのアナウンサーとコメンテーターのやりとり(?)が非常に好きです。


ところで、福井さんの作品の魅力は、なんといってもある状況のなかにおける個人を描けるところだと思います。『亡国のイージス』しかり、『終戦のローレライ』しかり。体制を変革しかねない事件や戦争という奔流のなかでもがき苦しむ人、そのなかで変化していく心を描いてくれます。また、主人公は、青年と中年のオヤジ。これもまた福井さんの作品のお約束となりつつあります。オヤジが捻くれた少年の導き手となる、という構図です。本作では、オヤジ=並河、青年=丹原という形になっています。ある意味でお約束だらけで、おもしろいのか、といわれるのかもしれませんが、その形でハマッてしまっていると違和感はありません。
ひな形が同じ作品を描いていくというのでは、ダン・ブラウンさんの作品と近いところがあるのかもしれません。ただ、背景がかなり違います。ダン・ブラウンさんの作品は、『天使と悪魔』においてイルミナティという結社が出てきますが、それは集団という色が強く、その中の個人にはあまり焦点が向いていないように思えました。一方の福井さんの作品は、ダイスという組織、警察という組織を描くにあたっても、そのなかにある個人の感情の動き、葛藤が描かれることが多いと思えます。ダン・ブラウンさんの描く秘密結社は、完璧な意志によって動く組織です。しかし、福井さんの描く組織は決して一枚岩ではない。上意下達の組織でありながら、そのなかで葛藤する個がいる。そうした群像としての組織が描かれます。
その組織の描き方は、ガンダム的な手法でもあります。『機動戦士ガンダム』(富野由悠季)では、すなわち、ジオン・ダイクンの思想をもとに組み立てられた国、ジオン軍と地球を(無理矢理)まとめた組織である地球連邦軍との戦いを背景としながら、そこに巻き込まれる青年たちを描いていきます。ジオン軍も連邦軍も一枚岩ではなく、そのなかでの葛藤が描かれます。それはその続編の『機動戦士Zガンダム』などでも変わりません。福井さんの作品も、そうしたところがあります。
もともと福井さんんがガンダムという作品のファンであるということもあり、親和性はいいのでしょう。彼は『月に繭、地には果実(ターンエーガンダム改題)』や『ガンダムUC』といったガンダム作品を描いています。特に前者は原作者、富野由悠季さんが直々にノベライズを頼んだという逸話もあります。富野さん自身も自分が描きたいものを描いてくれる人という認識をもっていることをうかがわせる話です。
ちなみに、福井さんの作品は、総じて富野さんの作品よりも格段に読みやすい―富野さんの作品が読みにくいという話はままあります―ので、そこはやはり小説家とアニメーターとの違いでしょう。富野さんの小説作品は、人の葛藤は描くものの、そこに足される背景としての組織の成り立ちなどの設定をながながと説明するように描いてしまうようなところがあります。『機動戦士ガンダムF91』の上巻はそういう点において壮絶です。そのあたりの総体として、いわゆる「トミノ節」という独特な言葉遣いによる文章が生まれてきます。福井作品にも組織の詳細を描く部分はありますが、山場のつくりかたによってそれを巧みに読ませるところがあります。そこには強いクセ(アク?)はありません。そんなわけで、福井さんの作品というのは、私にとってはとても読みやすい作品なのです。

作品自体の話とはだいぶ離れてしまったようにも思いますが、私が福井さんの作品全般を好きな理由でした。結局、集団の中で生きている人、というのが私のなかでフィットするところがあるようです。主人公がヒーローである必要は個人的には必ずしもないのですが、最近は本の雰囲気が現実生活に影響を与えるようになってきている部分があるようなので、主人公はどのような形であれエネルギーがある方が私の健康のためには良さそうです。
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by nino84 | 2009-02-18 22:44 | 読書メモ