本の感想などをつらつらと。


by nino84
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『フェルメール―謎めいた生涯と全作品』

『フェルメール―謎めいた生涯と全作品』(小林賴子、角川文庫)を読みました。

デルフトで生まれ、デルフトでその生涯を終えたヨハネス・ファン・デル・メール―フェルメール。現存する彼の全作品をその推定される制作年代順に解説していく。

本書は、前回のピカソに引き続き、角川アートセレクションと題されたシリーズです。実際には、こちらがシリーズ第一作で、ピカソが第二作です。『ピカソ』は読み物としては読みにくかったですが、本書はとても読みやすかったです。もともと、著者の『フェルメール論』という専門書の部分的な文庫化ということもあるのでしょう。ピカソのように極端な作風の変化があるわけではないフェルメールを、しかし、その作品をいくつかの時代にわけながら、丁寧に解説をしてくれています。フェルメールの現存する作品が、30数点。それを時系列にならべ、フェルメールの成長の過程を分かりやすく提示してくれます。

フェルメールといえば、『牛乳を注ぐ女』、『真珠の耳飾りの少女』、『レースを編む女』が有名でしょうか。カラーのこうしたイラストを見ながら、そういえばかつて『レースを編む女』をルーブル美術館で見たことがあった、と思い出しました。
それを一目見たとき、「小さい!」と思った記憶がかすかにあります。本書によれば、その作品のサイズは23.9cm×20.5cm。ルーブル美術館のなかでひっそりと淡い光に包まれたその作品は、当時中学生であった私には、数メートルにおよぶ大きな作品の印象に圧倒され、強い印象を残しませんでした。それでも、確かにその作品を観たという記憶があるのですから、異質な作品であったのかな、と思えます。淡い光、それこそがフェルメールの印象でしたが、本書を読んでみてもあらためて光の表現が美しい印象をうけました。淡い光、強い光、そしてその光をうけるものと人。綺麗です。
フェルメールは彼の周囲で提案される作品からそのアイデアを自らの技法とするように実験的に絵を描いてきます。フェルメールの作品は、ピカソほどではないにしろ、さまざまな表現方法を手にし、確実に変わっていきます。有名な作品であっても、フェルメールが自らの表現のかたちを模索する中で描かれた作品です。それはフェルメールが実験的にさまざまな技法を取り入れ、組み合わせた結果として生まれたものなのです。先に挙げた3作は、すべて傑作と言われていますが、すべて光の表現が異なります。『牛乳を注ぐ女』の光は力強く、生命にあふれながら、それでいて静かな一瞬が描かれています。『真珠の耳飾りの少女』は、強い光でありながらも冷たい印象です。その光から生まれる陰影が、少女の美しさを引き立たせています。そして『レースを編む女』、この作品では、光は全体を淡く照らしています。
こうした作品が、どのような意図で描かれたのか。フェルメールは謎の多い画家であり、その意図まで明らかにした文章は現存していません。それでも、本書は、絵から伺える作者の意図と、その結果として描かれたものに用いられている技巧を解説しています。

現存する作品すべてを解説してくれているということもあり、何度も繰り返して眺めたくなる、そんな本です。ポケットに絵画を。そのサイズも含めて、文字通りそんな本かなと思えます。
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by nino84 | 2009-03-04 21:34 | 読書メモ