本の感想などをつらつらと。


by nino84
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『亡国のイージス』

『亡国のイージス』(福井晴敏)を読みました。

新しい本を買わないで読書を楽しむには既存の本を読み直すしかない、というのがひとつ。もうひとつは先日映画版を観たからというのが主な理由。
ハードカバーを図書館で借りて読み、文庫版を買って読み、今回読み直して正味3回目。こうして漠然と感じていたものをはっきりさせていく作業はどこか恐ろしさを感じる。これだけ読むと悪い点まで自分の中ではっきり見えてくる。それが悲しい。まったく別のものが見えるのではないか、という不安もどこかにあるのだろう。
ともあれ、最近はこうして感想を文章に書き起こすようにしているから、否が応でもその作品と向き合わなければいけなくなっている部分もあるのだが。

閑話休題。本書は『川の深さは』からつづく作品の第3作目に当たる。一部ではこの3作をして国防3部作とも呼ぶらしい。まったくやっかいな呼称であると思う。煽りの文言が「よく見ろ、日本人。これが戦争だ」とあまりに過激なためでもあろうし、裏表紙の文章も「すべての日本人に…」と大風呂敷を広げる。それは少しずれていると思う。
日本語で書かれた文章であり、日本で発行されるのだから、日本人にむけてのメッセージなのは当たり前なのだ。実に普遍的なテーマを極端な事件で捉えているに過ぎないと思うのである。そのため手に取りずらくなっている部分もあろうが、同時にそれがテーマをはっきりさせるのに役に立っている。

親に親をやってもらえず、自らを閉ざした青年。祖国を憂い、祖国のために動いていると自分で信じて疑わない男。本当の戦争のなんたるかを知らずに復讐の一念で動いた男。あこぎなことをしていると分かっていながら、国のためと自分を騙そうとしている男。そして家庭を顧みず、艦で働くことしか知らず、それでも実際の戦争とも向き合わずにいた男……。
この作品はそうした人々の葛藤を描く。そのための序章であろうし、終章であると思える。そうした重要な部分が省略された映画版には何処か違和感を覚えずにはいられない。テーマさえ変わってしまいかねないほどの情報量の差が惜しい。


あまり書くとこの作品の良いところがひとつ損なわれかねないので、ストーリーには触れません。ああ、ぼくにもミスリードできるほどの文才があればいいのに。
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by nino84 | 2006-03-04 23:59 | 読書メモ