本の感想などをつらつらと。


by nino84
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『おくりびと』

『おくりびと』を観ました。

オーケストラのチェロ奏者として活動していた大悟は、オーケストラの解散とともに、妻を連れて山形の実家へと帰ってきた。そこで偶然であった納棺士という仕事。彼はその仕事の内容を妻に告げられないまま、続けていくのだった。

いわずとしれた、08年度のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品です。とりあえず、評判通り、良かった、とまずいいたい。なにがいいって、雰囲気がいい。つまり、映画全体に流れる空気がいいのです。
テーマとして扱われているのは、大きくは人の死ですから、それを描く空気をいいというのも御幣があるのかもしれないですが、それに対峙する人とその人のかもし出す空気をうまく捉えていると思えました。一見、淡々としていながら、しかし、その背後にある強い芯のようなもの、それがどこからか感じられます。主人公、大悟が勤めることになる納棺会社の社長。そして、火葬場の職員。彼らが普段対峙しているものをどのように捉えるのか。それは言葉にならない雰囲気として映画に写されていると思えました。
個人的には、笹野高史さん演じる男がよかったです。大悟が川を遡上して、そこで散乱し、死を迎えるサケを眺めながら「なんでわざわざこんなことをするのか」とつぶやいたときに、「まぁ、きっと自分の生まれたふるさとに帰りたいんでしょうよ」とさらっと言ってそのまま去っていく。なんということはないふとした一場面だけれど、なんか印象に残っています。さらっといえるところに、この人の芯の強さを感じたのかな。

全体として考えるよりも、まず感じる映画かな、と思います。納棺士の仕事の意味が、「理屈じゃわかってる」っていうのは、そりゃそうで、でもそれに対する意味づけを帰るためにはやっぱりまずその背後にあるものの意味を考えなきゃいけなくなる。それは万人に訪れる死、というものであって、それを考えることは非常に難しいように思えます。
もちろん、それはずっと考えていく必要のあることだけれど、2時間強の映画を観て、それ全体を悟れ、というのは大仰な気がします。別になにかの理屈が語られているわけではないので、別段なにか結論を見つけろ、と押し付けるような映画ではなかったと思います。だから、その一歩目として、まず感じる作品かな、と。死の絶対性、静謐さ。死のもつ意味を少し垣間見せてくれるそんな作品でした。

原作である『納棺夫日記』は3章立てで、日記調の2章に加えて、理論編ともいえる章が合わさって、作品として著されています。後者は宗教でいわれている死の概念を著者の立場から解釈しなおすという作業をしている章です。それは著者の答えではありますが、結局それも読者にとっては別の宗教書と同じ、ヒントにすぎません。そういう意味で、私個人としては、原作本の第3章は不要と考えます。
結局、答えは各々でみつけるしかなく、それは2時間で考えるには壮大すぎます。だからこそ、まず感じる作品だろう、と思えたのです。作品では、主人公、大悟の仕事に対する心境の変化が丁寧に描かれていますし、加えて納棺会社の社長と火夫の男も示唆的に描かれています。終盤、わけもなく泣いてしまっていました。なにに泣いていたのだろう、と思えるものの、理屈ではないんですよね、多分。
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by nino84 | 2009-05-05 00:43 | 視聴メモ