本の感想などをつらつらと。


by nino84
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

『ゲド戦記外伝』

『ゲド戦記外伝』(ル・グウィン、清水真砂子訳、岩波書店)を読みました。

ゲド戦記シリーズの舞台となっているアースシーを舞台にした短編が5作。そしてアースシー解説と称した作者による用語解説が収録されています。全体として本編では詳しく語られなかったことを描いた作品集です。
収録されている短編は「カワウソ」、「ダークローズとダイヤモンド」、「地の骨」、「湿原で」、「トンボ」(収録順)となっています。

「カワウソ」
かつてアーキペラゴには王がいた。しかし、王が死に、その後継が途絶えた。すると次第に国は荒廃していった。一部の魔法使いは互いに権力者のもとにつき、対立を繰り返していた。またそうした魔法使いを除けば魔法使いは敬遠されていたから、身分を隠し水面下でコミュニティーをつくり世間に出るのを避けて暮らしていた。そんな時代のお話。
この作品では、このような時代に、ロークの魔法学院がどのようにして生まれたかが描かれています。

この時代にはまだ女性の魔法使いもいた。むしろ男性の魔法使いがその力に溺れ、権力欲を高め、そのために魔法使いのコミュニティーがうまく回らなかったという。生み出すのは女で、支配するのが男…悲しい話ではある。


「ダークローズとダイヤモンド」
魔法使いは貞節であれ。まじない女は邪悪な存在である。そのようなルールができあがってからのお話。魔法使いは権威があるから、たとえ地元の有力者の子であってもその仕事でなく、才能があれば魔法使いになることが良しとされる時代。
ダイヤモンドは才能があった。だからダークローズとわかれ、町の魔法使いの弟子になった。しばらくの後、ダイヤモンドはロークの学院へ行ったらどうかといわれる。しかし、ロークは遠く、言ってしまえばダークローズとは決して逢えない…ダイヤモンドはダークローズを愛していた…。

魔法使いになるか、愛をとるか。なぜそれが一緒に存在できないのか。本編中では一応の理由がつけられているものの、根拠はない。ただ禁止されているだけである。そこに疑問は感じよう。しかし、権威的にそれを押しつけられて、それを乗り越ることができようか。


「地の骨」
ゲドの師であったオジオンがその師に師事していた時期のお話。ゴントが大地震に襲われると感じたオジオンの師がオジオンと協力し、それを止めようと試みる…

正伝中でもオジオンが地震を防いだ英雄として書かれることは何度かあったが、実際には彼一人の力ではなかった。なにか大きなことをなした人の下には、その人を支える多くの人がいる。


「湿原で」
ゲドが大賢人であった時代。ある島で疫病が流行りだしていた。一人のまじない師がその治療をしに、その島の村を訪れる。しかし、そこには以前からまじない師がいた。彼らは反発しあい、協力しようとはしない。
そんな時、もうひとり男がこの村をおとずれる…

人は悪いことをしようが、なにかのきっかけがあれば更正しうる。そんなお話。


「トンボ」
ある島で、力をもつ女性が見いだされた。しかし、女性であるから、魔法使いにはなれない。ほんとうに?なぜなれない?疑問に思った彼女は、ロークからきたというまじない師の力を借り、姿かえの術をもちいて、ロークの学院に入ろうと決意する。女性はそのまま学院の中に招き入れられたが、だれも彼女の力を正確に捉えることができない…

ゲド戦記の正伝の『帰還』と『アースシーの風』をつなぐお話です。『アースシーの風』において、突然でてくるお話の詳細が描かれます。
長年女性を拒んできた学院が、彼女を招き入れた。世界は絶えず変化している。拒まれ続けた女性の中には、大きな力が眠っている場合だってあるのに、地位を、権力を守ることだけに終始してきた大勢が、それを見過ごしてきた。世界の変化の中で、それがやっと見直されつつあるのかも知れない。女性の社会進出がすすむ僕らの社会だって同じことだ。
正伝の空白を描く物語でありながら、描かれているのは『帰還』でも同じように描かれてきたフェミニズムの問題とも見える。
[PR]
by nino84 | 2006-06-16 19:05 | 読書メモ