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本の感想などをつらつらと。


by nino84
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『アースシーの風 ゲド戦記5』

『アースシーの風 ゲド戦記5』(ル・グウィン、清水真砂子訳、岩波書店)を読みました。

アーキペラゴに王が立ち15年。王は上手く国を治めていたが、依然として西には竜が、東にはカルガドが存在し、不安は絶えない。西の竜はアーキペラゴへと度々進入し始め、村々を襲い始めた。西のカルガドはアーキペラゴとの和睦のために王女をおくり、腕環をもとめた。
こうした状況のなか、一人のまじない師がゴンドを訪れる。彼はかつての大賢人であり、いまはその力を失ってしまったゲドに会いにきたのだという。


ゲド戦記の現在のところの最終巻です。現実世界も前作の出版からすでに10年ほど経過しており、世界の情勢も随分変わりました。前作でも時代に即したテーマで作品が描かれていましたが、今作もそのように見ることができると思います。
今まであまり描かれてこなかった(『こわれた腕環』では舞台になりましたが、)カルガドの人たち。彼らは僕らの世界での異教徒のように描かれます。言葉が通じず、生死観もことなる。たがいにたがいを恐れ、近づくことをしてこなかった。これは竜も同じである。アーキペラゴの人々は竜を恐れる。けだものだと断じる。ではなぜ竜は言葉を、しかも天地創造の言葉をしゃべれるのか?人はそれに注意をむけたことはなかった。
たがいにたがいを理解してこなかったものたちは、しかし、たがいを理解する必要が生じた。
世界のバランスが崩れかけている。そのような危機にあり、ようやく彼らは向かい合った。たがいの存在を認め、自分たちが絶対的な存在でないことを知る。おたがいに異なるのは当たり前である。言葉が違い、見た目も異なる。考え方だって異なる。しかし、そうした違いのなかから、気づくことができるものだってある。
by nino84 | 2006-06-17 12:35 | 読書メモ