本の感想などをつらつらと。


by nino84
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「パニック」

「パニック」(安部公房、『R62号の発明・鉛の卵』新潮社収録)を読みました。

良い職がみつからず、途方にくれているところに声を掛けられた。なんでも、パニック商事という会社の求人係らしい。
後日、その求人係と酒を飲むことになったが、その際、前後不覚に陥った。翌日、目が覚めると、目の前に求人係が血を流し倒れていた…。



酒を飲んで、前後不覚に陥ったら、自分が何をしていても不思議ではない。血だらけの男が転がっているよりも、朝起きたらとなりに知らない異性がいる、というパターンをよく見ますが、同じようなことでしょう。たとえ覚えていなくても、それをやったという状況証拠や証言があれば、それを信じてしまうだろう。
人の記憶なんてものは、時としてとてもあやふやなものだ。自分はやっていない、という思いと自分がやったのでなければ、誰がやったのか、という疑問。その2つの考えが男を迷わせる。罪の意識というのは、そうそう消えるものではないだろうしね。これが前半の葛藤。


終盤はまた違う葛藤が男を悩ます。一度犯罪を犯してもう後戻りはできないから、それに加えて犯罪を犯しても構わないのか?しかも、後戻りできないとはいえ、犯罪をすることを生業としてしまって構わないのか?生きるためには犯罪を犯す必要があるが…。

男は良心から、犯罪を犯すことを避けようとするのだが、そのときのある男の説得の仕方はなかなかすごい。社会に対する犯罪の有用性をとうとうと述べるのである。

犯罪が社会を発達させる。それはどうだろう?
泥棒がいるから、錠前が発達したとは言えるが、そもそも、泥棒がいなければ、錠前などいらないのだ。結局、必要に迫られる場面がなければ、発明などされないわけで、それをわざわざ作り出しているのが犯罪である。これは社会に貢献しているとは言えない。
また、犯罪の対策用の技術が別の目的に転用されることもあるだろう。しかし、これにしてもたまたま別の目的のためにつかえるだけであって、その目的だけのために技術が生まれた可能性だってある。結果的に転用されたに過ぎない。転用すれば、それだけ開発費が抑えられるとしても、そもそも犯罪がなければ、犯罪対策用の技術に対して開発費を捻出する必要はない。

とはいえ、現実に人が犯罪を犯しているわけだから、こんな考えは実は無駄なのである。が、少なくとも犯罪が社会を発展させるという意識は持ってはいけないだろう。それは本来なら不要なものである。
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by nino84 | 2006-10-07 18:00 | 読書メモ