本の感想などをつらつらと。


by nino84
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「変形の記憶」

「変形の記憶」(安部公房、『R62号の発明・鉛の卵』新潮文庫収録)を読みました。

コレラにかかり、渇きに苦しんでいたぼくを少尉がピストルで殺した。ぼくは魂になった。でも、自分の死体をみても死んだという感覚が薄い。
ぼくは、少尉を乗せて去っていこうとするトラックにあわてて乗り込んだ。



人が死んだらどうなるのだろう。だれもその答えを知らないし、分かるわけがない。だから、「ぼく」にも死んだという実感がない。他人からは見られないけれど、自分の足で歩き、トラックの揺れに合わせて体が揺れる。魂は、かつて体があった時と同じ反応をする。
また、「ぼく」の死にかたも死の実感と関係するだろう。戦闘の中で死ぬことは皇国のために死んだということができよう。しかし、非戦闘時に―苦しみから解放してくれたとはいえ―友軍の兵士に殺されることを想定している兵士がどれだけいよう。突然訪れた死を受け入れることができるだろうか。
戦場はこうした不条理な死が多く訪れる場所である。兵士のみならず、戦場となってしまった土地に住む人々も不条理な死をむかえることがありうる。

しかし、反戦が訴えたいのかといわれると、そうではないような気がする。確かに、不条理な死が多いのは、確かであるがその善し悪しを判断するような作品ではないように思う。魂をうろつかせる舞台として戦場こそがふさわしいという判断だったのではないだろうか。どちらかといえば、戦争云々ではなく、人が魂になることそれ自体に焦点が当たっているように思われるのである。
そして魂、すなわち意識だけになっても身体があるものだと感じている意識と身体との密接な関係を指摘しているのではないだろうか。
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by nino84 | 2006-10-09 12:23 | 読書メモ