本の感想などをつらつらと。


by nino84
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『NHKにようこそ!』

『NHKにようこそ!』(滝本竜彦、角川文庫)を読みました。

俺、佐藤達広はいま流行りのひきこもりだ。だが、この状態は俺のせいじゃない。この状態をつくりだしたのは、全てNHKの陰謀なのだ。そこで俺はNHKと戦うことを決心した。…だが、その決意から数ヶ月、状況は変化しなかった。そんなとき偶然であった女の子から妙な置き手紙をもらう。
曰く、「あなたは私の『プロジェクト』に大抜擢されました」



作者のいうところの、いま流行りのひきこもり、を主人公にした作品です。作者自身にもひきこもりの経験があるらしく、それなりに自分の心性を反映しているとかいないとか。つらいね。特に作品が一人称で書かれているから、よけいに。

それにしても、主人公の症状が酷い。妄想弛緩に視線恐怖、不安神経症、神経症水準としていいのか分からないが、かなり追いつめられている。ひきこもりであるが故に、なにかを人に話すこともできず、自分の中にため込んでいくしかない。
社会との摺り合わせが上手くできないからか、―『他人を見下す若者たち』(速水俊彦)ではないが、―躁の時に「おれはよく分からないけれど、なんかでかいことをやるぜ!」という状態に陥れば、ふと気づいたときに余計に自分の無力さを知って引きこもってしまう。悪循環。しかも、ただ一人の友人は、なかば社会からドロップアウトしたような、エロゲーオタク。彼も同じような心性だから、二人いても「なんとかしなければ」、「なんともできない」ということの繰り返しになり、抜け出せない。

そんなときにあらわれたのが、プロジェクトを提案してきた女の子、岬。
彼女の登場で、主人公の周りの環境が少しずつ変わり始める。まったく新しい考え方に触れることになって、自分の考え方が少しずつ変わっていく。岬がやっていたのは、カウンセリングのまねごとだったけれど、あれでも効果はあったんだと思う。少なくとも、佐藤の思考は外に開けてきたのだから。

で、これだけだとあまりにも静かな作品のような気がしてしまうが、それはやはり小説。クライマックスに向けて、それなりのイベントが用意されている。そもそも岬という娘がなぜプロジェクトを計画したのか、そのあたりが焦点になってる。
「みんな痛みを抱えて生きているんだよ。ひきこもりさんもつらいだろうけど、つらいのはみんないっしょなんだよ」みたいな?こんなこと出だしでいったらすぐに拒絶されてしまいそうですが、社会に開けてきたひきこもりにはそれが真実なんだと、なんとなく分かる。だから、最後、佐藤は動く。懸命に。

…でも、解決するかどうかは別問題。
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by nino84 | 2006-10-28 11:48 | 読書メモ