本の感想などをつらつらと。


by nino84
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『蓼喰う虫』

『蓼喰う虫』(谷崎潤一郎、岩波文庫)を読みました。

要は美佐子に愛人がいることを許容している。それは夫婦らしい交流もない二人の関係をきれいに解消し、その後の妻のあてまでも保障してやりたかったからだ。それほどに気遣いながらも、しかし、互いの性格もあってなかなか最後の踏ん切りがつかないでいた。

2冊続けて谷崎さんです。先の『卍』と同年に発表された作品で、どちらも舞台は関西ですが、こちらの作品は三人称で書かれています。読みやすさでいえば本作のほうが読みやすかったように思います。とはいえ、もう一方が特殊なので、単純にどっちがいいということはいえないとは思いますが。

さて、本作は離婚をしたいのだけれど、ふんぎりがなかなかつかない状態にある夫婦、とくに夫側の葛藤を描いています。夫である要、妻である美佐子の性格や子どもの存在、妻の両親の存在、さらに社会的な立場の問題、こうした要因によって夫婦は離婚をためらうのである。
現代になって離婚が頻繁になり、かつてよりもしやすい状況とはいえ、その葛藤については変わらないように思います。この作品の場合、夫婦の性格という要因がかなり大きく影響していますが、思えば、そういった性格でなければ周辺状況を把握することをせずに離婚に踏み切ることもあるのでしょう。そうやって登場人物が一人歩きしていくことを思えば、あのような性格もなんとなくうなずける。作品として離婚への妨害要因を書き、それらによる心の動きを書こうと思えば、登場人物が間違いなく離婚を決断できる状況に落とし込むのは避けたいでしょうから。
ちなみに、割り切れる人も作中にはでてきていて、要の従弟がそれにあたります。要とは対照的なこの人物は、離婚に際して性格が影響するんだということを描いているのかな、と思ったりしました。

あと、この作品では子どもの強さというか、能力というかを大変強調して描いているのが印象的でした。子どもは親の様子を敏感に感じ取っているとか、子どもは親に気を遣っているとか、そういった子どもの強さに対する視線というのは興味深い。もちろん、これについては僕の趣味でない部分での興味の中心がそのあたりにあったりするから、という部分もあるとは思います。
しかし、子ども目線でなく、あくまで大人からみた子どもという描き方をされているにもかかわらず、こうした子どもの強さを描いている部分は特徴的かなと思います。子どもの強さを描こうとするとき、どうしても子ども目線で親の離婚をみるという状況で描かれる―多くは子どもの一人称によって内面を描くことによる―ことが多いように感じています。それはそれでいいのですが、やはり子どもは子ども、という感覚が強く残りましょう。本作のようにあくまで大人を主役にし、大人の間での問題としての離婚があるなかで子どもの強さを描くというのは読者である大人が理解しやすい書き方なのではないかな、と思いました。
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by nino84 | 2007-10-18 09:35 | 読書メモ