本の感想などをつらつらと。


by nino84
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『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』

『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』を観ました。

かつて理髪師の男には美しい妻と生まれたばかりの赤子がいた。しかし、その妻を有力な判事が見初めたことで、男は無実の罪で終身刑に処せられた。
そして15年。男はかつて暮らした街、ロンドンに帰ってきた。妻への想いと判事への復讐心を胸に秘めて…。



本作はゴールデン・グローブ賞をミュージカル/コメディ部門で受賞した作品です。全編で20曲を超える歌が挿入され、物語の雰囲気をドラマとは異なったものにしています。
たとえばふたりが同時に発声するというのはドラマではまずありえないですが、歌ならそうした状況もむりではありません。また、歌詞にくわえ、リズムやメロディーなどがあり、セリフよりも直に感情が表れているように思いました。あまり頻繁に映画をみるわけではありませんが、全体的に演出の違いというのをずいぶん感じました。こういうの、いいかも。

また、全体的に紅が印象にのこりました。舞台が霧の都ロンドンであり、全体的に暗い雰囲気で統一されているのですが、その中で血の紅が鮮やかでした。本作はR-15指定がされていまが、観れば仕方ないかな、と納得できるでしょう。
一方で、ミセス・ラベットが海辺での暮らしを夢見て歌う場面では一転してさわやかな海と空の青が印象的だったので、紅はトッドのどす黒い感情を表していたのかな、と思うところがあります。

人物の行動だけを追うと、かなり残酷な作品となるのでしょうが、歌や映像によってかなり登場人物の感情が描かれており、そこまで残酷な印象は受けませんでした。むしろ登場人物の感情が分かりやすくなっているぶん、理性的に行動を観ることができたように思います。


さて、印象の話だけでなく、筋の話もしましょうか。以下、ネタバレになりますので、ご注意ください。

前述のとおり、お話としては理髪師の男、トッドの復讐劇とすることができます。
彼は終始一貫して夫を失い毒を飲んだ妻の復讐のみを求めています。自分の娘が判事に養子として育てられていることを知った彼は、さらに判事への復讐心を募らせていきます。しかし、判事への復讐の機会がなくなり、同時に判事の屋敷から連れ出された娘の行方もしれない、そんな状況に絶望すると、彼はこの世界に絶望します。一人ではなにもできない矮小な人間。そんなものは死んでしまえばいい。そして、彼は自らのカミソリで客の首を切り裂いていくのです。

一方、トッドに店を提供したミセス・ラベット。彼女は一貫してトッドの愛を求めます。トッドがいない15年、彼の妻は彼の元にいません。彼女はいまだに妻の影を追うトッドに、いまそばにいるのは私で、それでいいではないか、と訴え続けます。しかし、その想いトッドになかなか届かない。彼女はトッドに協力しつづける-トッドが殺した客をミンチにしてミートパイをつくる-ことで、なんとかトッドを自分に振り向かせようとします。また、したたかな彼女はミートパイを売ることで儲けをだし、それによってさらにトッドとの幸せな生活を夢見るようになります。
彼女はこの世に絶望して殺人の手伝いをしているのではなく、トッドとともにいるために彼の殺人を手伝っていると思えます。この人の方が実際に手を汚しているトッドよりよほど残酷です。人をミンチにし売っている一方で、海辺でのトッドとの暮らしを夢見ることができるのですから。

二人は決して同じ思いを共有してはいません。しかし二人の感情はともにとても強いのです。
最終的に、トッドは復讐を果たすものの、ミセス・ラベットによって、その復讐も意味を失います。そしてトッドはミセス・ラベットのしたたかさを知り、彼女を決定的に拒みます。二人の歪んだ、強い感情は結局、何もかなえることはできません。
しかし、トッドの妻と共にいたいという想いはかなえられるのです。

また、判事のもとに囚われていたトッドの娘はその思いを叶えられたと思えます。
彼女の思いは決して歪んでおらず、ただ15年の年月によってかなり強いものでした。そして「石の壁などものともせず」に彼女を見つけ、助け出した男の思いも同様に強く、純粋なものでした。
そんな彼女らの思いがかなえられないことはないと思えます。


人の業の深さを感じさせつつも、エンディングは救いを残しながらうまくまとめられていました。全編を通して画面に血が舞い散っていましたが、それほど抵抗なくみられ、楽しめる作品だったと思います。
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by nino84 | 2008-02-01 20:08 | 視聴メモ