本の感想などをつらつらと。


by nino84
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「名前のない土地」

「名前のない土地」(ハーラン・エリスン、浅倉久志訳、『世界の中心で愛を叫んだけもの』ハヤカワ文庫収録)を読みました。

ノーマン・モガートは運悪く警察につかまり、文なしのヤク切れ。さらに女を殺し、警察に追われる身に。彼はその逃走途中、一軒の店をみつける。「脱出は店内へ(エスケープ・インサイド)」。
店内に足を踏み入れた彼は、しなびた小男と内部への脱出(エスケープ・インサイド)の契約を交わす。そして彼の意識はプロメテウスのもとに…。



まだまだ続きます、ハーラン・エリスンさんの作品。感想を書いている私自身がそろそろお腹一杯だったりしますが、次に読む本も特にないので、この調子で書きます。
それにしても、相変わらず一読しても筋しかわからない作品が続きます。表面をなめるだけでは訳がわからなかったので、この文章を最後まで読むとオチまで多分了解できてしまうと思いますが、あしからず。
ちなみに今作は、プロメテウスが登場するということで、この作品は神話をモチーフにした作品となっています。プロメテウスとはギリシャ神話に登場する、人に火を伝えた神です。しかし、その行いがゼウスの怒りを買い、山の頂に鎖で縛られ、ヘラクレスにより解放されるまで、鳥にその身をついばまれつづけたとも言われています。


さて、本作ですが、まず冒頭の「伝説は、こんなふうにして生まれる」と、作品の末尾の一文の意味がさっぱり分からない。その間に起きている話が、私のなかでうまく伝説にならないのです。「内部への脱出(エスケープ・インサイド)」した人間がプロメテウスと遭遇する。そんな風にして生まれる伝説…?

とりあえず作品としては、ユングの集合的無意識を念頭においていると考えられます。ノーマン・モガートが内部、この場合は無意識へ脱出することで、彼はプロメテウスと出会い、彼がプロメテウスとなる。それが集合的無意識の部分で共有され、伝説(神話?)が形づくられていくのです。
ちなみに、ノーマン・モガートが体験した伝説のラベル―すなわちプロメテウスという固有名詞―は、彼が西欧に生きる者だからこそそう体験するもので、原住民たちはそれをそうは呼ばない。作中、原住民の間では、プロメテウスは<あのお方>であり、ウイポクラピオルなのです。このあたりからもユング的なものを意識していると感じられます。

そう、ノーマン・モガートの伝説への関わり方は確かに分かるのです。しかし、「こんなふうにして生まれる」伝説の内容がいまいちはっきりしないように思うのです。彼が内部で行ったことが伝説になっているのか、彼が内部で思ったことまでが伝説になっているのかが分からないのです。
前者の場合には、ノーマン・モガートのした伝説へのかかわり方は、ただプロメテウスの外見を人間にしたということです。これならプロメテウスの伝説は変わらない。むしろ、補完したといえます。また、作者が投入したSF的な要素は余談くらいの扱いになるでしょう。
一方、後者であれば伝説の内容は全く変わってしまいます。それはプロメテウスの伝説とキリストの伝説を関連づけてしまうもので、その部分には作者が投入したSF的な要素があります。新しい伝説といわれれば、それですむので、この可能性は捨てきれないような気がします。

どちらにしろ、集合的無意識、いわゆる人類が生んだ伝説、はこのようにして生まれているんだということにはなります。
読みがもう少し足りないのかもしれませんが、大勢に影響がなく、このレベルで私の頭がオーバーヒートしてしまったので、ここで考察をやめてしまいました。私に読解力をください。末文の「なぜなら、伝説はそんなふうにして…」の「そんな」がなにをさしているか分からないなんて…日本人としてどうかと…。


ちなみに、先ほどから書いている作者の投入したSF的要素ですが、プロメテウスとキリストを異星人にし、彼らが野蛮人―すなわち昔の地球人類―に知識の炎を与えたことにしたのです。また、ともに「人間に何かを与えた」ということで、対にしたのでしょうか。なんと彼らが愛し合っていたという設定もついています。
やはりSFなので、事象についてまわる神性はとことんなくしたいという意図があるのでしょうか。プロメテウス・キリストの両名を異星人にして、彼らが罪をおかしており、その罪を犯したこと自体と、それが執行されている状態が、伝説のあらわしているものなのだということにしています。そして今回の作品の中でその異星人の部分が消えたことになり、そうした結果として神性が付与されることになるのでしょう。
あるいは、先ほど言ったとおり、僕は伝説がどういう状態で「生まれた」のかはっきりと把握していないので、全くあたらしい伝説が「生まれた」という可能性もありますが、なんか収まりがよくないんですよね。
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by nino84 | 2008-02-10 21:42 | 読書メモ