本の感想などをつらつらと。


by nino84
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『逆光のメディチ』

『逆光のメディチ』(藤本ひとみ、新潮文庫)を読みました。

ロワールの遅い夕暮れ。病床のレオナルドは、彼のヴェネチアでの16年の思い出を、彼でない人物にたくし、弟子フランチェスコ・メルツィに語る決心をした。
メディチ家の人々との出会い。彼らと少女アンジェラの関係。そして彼らの行く末。レオナルドの回顧録の空白の16年が、いま語られようとしていた。



本作は、ルネサンス期のイタリアを舞台にした小説になっています。
実に半月以上にわたってSF小説を読みつづけてきたので少し違うジャンルのものに手を出しました。といっても、人に借りたのですが。

さて、本作は、芸術家を志すアンジェラとメディチ家の人々、特にジュリアーノ・デ・メディチとの関係を描いた作品とも、メディチ家のロレンツォとその叔父レオーネとの対立を描いた作品とも読めると思います。
史実をベースに描いており、政局のクライマックスがラストにあわせてあるために、読み進めるうちに、後者の色合いが非常に強くなってきますが、一個人の回顧録ですから、やはり前者で読みたいところかな、と思いました。
そのため、読み方として、後半の政局の変動については大勢の把握だけにとどめ、細かい部分を追うのをやめてしまいました。また、細かい部分を考えると立地が分からなくて混乱しそうだったというのも理由です。
政局が変化するからこそ、その中にいるジュリアーノも刻々と変化し、それを描こうとするアンジェラも変化していく。回顧録としてなら、その関係の変化がもっとも重要な部分であるべきでしょうし、個人的にも楽しめる部分でありました。


ジュリアーノは兄ロレンツォと異なり、政治に必要とされる才をあまり持ちませんでした。しかし、彼はありあまる美貌と繊細な精神をもっており、そのために人々のあいだで花のジュリアーノと呼ばれるほどの人物です。
そして、本作の語り手の化身であるアンジェラ。彼女は美しい姿をしながら、人とあまり付き合わず、幼い頃から多くの時間を絵を書くことに費やしてきました。そんな彼女は偶然にもメディチ家の人々とであい、その才能をメディチ家の後ろ盾のもとで伸ばしていきます。

ジュリアーノに出会ったアンジェラは彼の姿に感動し、彼を描きたいと思います。彼女はこれまで風景しか描かずにいたにも関わらず、ジュリアーノの姿を描きたいと思ったのです。その姿から精神の健全さをも示すような彼に対する彼女のその衝動は、彼に対する愛でした。
しかし、ジュリアーノはメディチの男子。彼は次第に分が悪くなる政局の中でその精神を消耗していきます。そこにアンジェラが描きたい姿は見出せなくなっていきます。
アンジェラはなんとかして、ジュリアーノを描こうとするのですが、それができないのです。
そして懸命に絵だけを描こうとするアンジェラを見て、ジュリアーノは自分の想いとのすれ違いを感じていきます。そのことで、ジュリアーノはさらに孤独を感じてしまいます。

こうした2人の感情のすれ違いという部分だけ踏めば、普通の恋愛小説としてよめると思います。しかし、序章によって、すべてが脳内変換されてしまって、すこしの抵抗が生まれたりもしました。
もちろん、序章に意味がないわけではないのだろうと、読み終わってみると思えます。アンジェラはあの位置にいる人物でしか代わりの聞かない人間ですし、そもそも彼女の才能がなければこの話は成立しないのですから。それらに加え、女性として描かれることも含めて、すべては第三章のラストシーンのために必要なピースだと思えます。


ちなみに、本作は事実に基づく部分が大きいので、登場する人物はもちろん、描かれる絵画も、ものによっては現存する絵そのものを想像することができます。そんな楽しみ方もどうぞ。
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by nino84 | 2008-02-22 15:48 | 読書メモ