本の感想などをつらつらと。


by nino84
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「にんじん」

「にんじん」(重松清、『yom yom vol.6』新潮社収録)を読みました。

同窓会の案内状が届いたのは、去年の11月。<工藤先生もぜひお越しください>と手書きのメッセージが添えられていた。
今年で20年。幹事の名前をみても顔をすぐに思い出せなくなっていた。しかし、そこには出ていない一人の教え子の顔は、すぐに浮かんだ。にんじん――。



今回は重松清さんの短編。たぶん初めて読む。少なくとも僕の部屋の本棚には重松さんの本は並んでいない。題材が題材なら読みやすい文体なのだと思う。今作は題材が教師ということで、考えることもいろいろあって疲れました。


さて、今作は先にも触れたとおり、一人のベテラン教師が同窓会の案内状を読む場面から始まる。そして、それを契機に彼は自分の若かった頃に思いを馳る。

にんじん。かつての工藤は彼を嫌っていた。
あれから20年。工藤はベテラン教師になり、すでに2人の娘がいる。下の娘は中学3年生。こんな今なら自分の行ってきたことの理不尽さがわかる。だから、同窓会に行くのを躊躇しているのだ。


教師も人だから、好き嫌いはある。特に、このときの工藤は風間というベテラン教師が一年かけてまとめあげたクラスを6年生になって受け継いだのだ。工藤が対抗心を燃やし、自分の力の不足を誰かに転嫁することは、やってはいけないことながら、一面仕方のないことだとも思える。
しかし、転嫁されたほうはたまらない。若かった工藤は頭でそれを分かりながら、にんじんを嫌いつづけた。
ベテランになった工藤は、その当時を思い、その罪に苦しむ。自分にできることをすればよかっただけ、ベテランの教師のさじ加減など、わかるわけはないのだ。工藤は風間ではない。20年経ちベテランとなった工藤と、当時すでにベテランだった風間でも別の考え方を持っているだろう。


こういう教師視点の作品は、意外と少ないような気がしています。いつも子どもが主役になって、あの先生は嫌いだ、というような作品になっていく。教師の葛藤が描かれることはそんなにないのではないだろうか。
最近はモンスター・ペアレントなどの親の蛮行(?)が指摘され、教師の大変さがクローズアップされてきている。また、教師の淫行などの犯罪が報道されることも増え、それなりに教師も人だという認識がされてきているようだ。
もっとも、教師への期待値が高くなるのは、ある意味で当然だと思えるのだ。教師の犯罪はすべての教師がそのように悪いということを示してはいないから、どこかで「うちの担任の先生は、大丈夫」という感覚もあろう。その「大丈夫」には「役割を完璧にこなしてくれる」という期待が含まれていることが多い。そこで教師自体の大変さが優先されることは稀だろう。
仕事だからこなして当たり前。それはそうなのだが、教師は現場に出た瞬間からベテランと同じ完璧な仕事を求められてしまう。経験が圧倒的に違うのだから、それは多くの場合無理なのだが、それを考慮してくれるほど、世間は教師に優しくはない。


教師も間違えるし、成長もしている。そんなことをあらためて思い出させてくれる作品でした。
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by nino84 | 2008-03-03 11:17 | 読書メモ