本の感想などをつらつらと。


by nino84
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

『ブレイブ ストーリー』―映画―

『ブレイブ ストーリー』を観ました。

親が離婚し、家に残った母が倒れた。小学5年生のワタルは自分の運命を変えるため、異世界、ヴィジョンへと旅立つ。


宮部みゆきさんの小説『ブレイブ・ストーリー』の映像化作品です。原作を読んだことはありませんが、ハードカバーで上下巻、文庫で3(角川文庫)あるいは4巻(角川スニーカー文庫)立ての大長編なので、2時間の映像化はやるだけすごいな、という感じがしました。原作からはかなりカットした部分があると思われます(少なくとも宝玉1個分はエピソードが足りないと思う)。
とはいえ、1映像作品として観たときには、テーマが絞られており、―僕が特定の理解の枠組みを持っているとはいえ―かなりすっきりと整理されており、かなり面白い作品だったな、と思います。

テーマは一言でいえば、少年の成長、ということに尽きるかと思います。
家族崩壊の危機にあって、自分の幸せ―家族が元通りになること―を目的としてヴィジョンに訪れたワタルが、その世界で人と交わり、ミツルという自分と目的を一にする男の子と出会い、父の葛藤を知り…そして、ヴィジョンの崩壊の危機に直面する。その中で、ワタルは人を犠牲にしてまで自分の幸福を願っていいのか、という疑問を感じはじめる。
当初、自分にしか向いていなかった目が、様々な体験により外へと向きはじめる。そして、その目線で得られたものと、自分というものとの兼ね合いを見つけ出そうとするのです。

小学校中学年くらいから俗にいうギャングエイジで、自分と同じような思考の子どもたちが集まって仲間集団を形成する。それが中学校、高校と進学するにしたがって、その子の周りの社会が広がることで、同じような思考のものたちだけと付き合っていくわけには逝かなくなる。そのようにして広がる社会の中で、他者の視点―他者が自分と違うこと、あるいは同じことを考えていることを知る―を取得していくし、社会性ともいえるものを身に付けていく。余談ですが、こう考えると、ミツルの対応が一番小学5年生っぽいのです。
一般的な発達年齢からいえば、小学5年生のワタルという少年は、まだギャングエイジから脱却できないくらいの、それでも児童期から青年期に入ろうかというくらいです。そんな少年が、ヴィジョンでの冒険が、発達の最近接領域―その人の能力を少し越える課題―的な働きをして、引っ張り上げられたと考えるべきではありますが、青年期的な課題を一面乗り越えるというなんともすごい内容だったりするわけです。
ちなみに、こういうのは最初、知性化―頭で理解する―だけで、行動が過剰だったり、過小だったりといびつになったりする可能性もあるのですが、ワタルは最終的に自分の言葉で女神さまに願いを言いますから、そんなこともなく、しっくりきているんでしょうね。


このように個人的には、2時間でこのテーマを描いたと観たわけです。こういう枠組みがあると非常に理解が進むのですが、これかなりの急展開ですから、主要対象年齢は分かりませんが、小中学生にはしっくりくるのは、意外と難しいのかな、と感じたりしました。
おそらく、原作にはこれのテーマ以外の部分がかなり入っているはず―離婚前後の夫婦間葛藤は宮部さんなら描きそうだな、と。これはワタルが両親それぞれとぶつかりあうときにもベースとして影響するでしょう。―ですし、またこのテーマに関連したエピソードもあったはず(父・子の意見のぶつかり合いはあったものの1回だけですし、母・子のぶつかり合いは、葛藤がおきそうな場面(夫を追わない母を疑問に思うワタル)をさらっと流した点からの判断)と思ったりしました。
そんな中で、この話を一本筋を通して、成立させたという点で、個人的には評価高いです。満足。


ちなみに、細かいシーンのつながりを考えるとツッコミどころがいくつかあります。パンくわえて家を出て行って次のシーンでパンが既になかったり(好意的に考えれば、マンション降りていくうちに食べきったのだろうが)、キ・キーマと突然再会したり、ハイランダーの一行と突然再会したり。
また、サブキャラクターについても、(おそらく)時間の都合上、ミツル以外はかなり薄っぺらい印象。ミーナの両親の話は断片的に語られるもののほとんど出てこず、そもそもキ・キーマは素性がわからない。本編を通して、後者は同行者という以外の存在意義が致命的にない。
とはいえ、こういう点を全部解決しようと思うと、どう考えても時間が足りないでしょう。ですから、テーマを絞ってそれだけはしっかり書く、というのでいいと思うのです。周辺事態は原作で楽しめばいいのかな、と。
[PR]
by nino84 | 2008-06-29 22:59 | 視聴メモ