本の感想などをつらつらと。


by nino84
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『機動戦士ガンダムUC 6 重力の井戸の底で』

『機動戦士ガンダムUC 6 重力の井戸の底で』(福井晴敏、角川書店)を読みました。

軌道上での戦いの果て、地球へと落下していった《ユニコーン》とバナージは、ネオ・ジオンの戦艦に救助され、サハラ砂漠でその行動をともにしていた。
一方、父からラプラスの箱の真実を知らされたリディは、自分のなすべきことに迷いながらも、ラプラスの箱の確保を命じられたブライト揮下の《ラー・カイラム》に組み込まれることになる。
《ユニコーン》が示す座標へ、彼らは引き寄せられていく…。


いつの間にか発売されていたんですね、最新刊。発売から3週ほど経過していたようです。マンガと同じスペースに置いてあることが多いので、書店へいってもなかなか気づかないことがあるのがいけません。文庫で出版していただけると、こちらとしてもふと書店に行ったときにみつけやすいのに、と思わなくもありません。
で、そろそろ物語も佳境だそうです。個人的には読んでいても全くそんな感じがしないのですが、帯でそういっているのだから、そうなのでしょう。最初からこれまで、局地戦から戦闘規模が膨らんでいかないことで、そう思うのかもしれません。そういえば、『閃光のハサウェイ』(富野由悠季)のような展開でしょうか。あれは最後あっけないですが、はてさて本作は、最後どうなるのでしょうか。

さて、本作では、バナージはネオ・ジオン軍と行動をともにすることになります。直前まで、戦っていた相手ですが、そこはラプラスの箱の鍵ということで、そこそこの扱いをされます。しかし、バナージ自身は、知った人を自らの手で殺したということに罪悪感をもっています。罪深いことをやっているという認識がバナージ自身を押しつぶしていきます。
自分の自由になるただひとつの部品であるこころを失わないように生きる。それは戦争という個を越えたところで起こっている事態にあっては難しいことでしょう。しかし、大人たちはバナージに言葉で、態度で、その大切さを伝えます。インダストリアル7から軌道上での戦いに至るまで、バナージはそうした大人たちに支えられ、それに応えるようにして成長をしてきました。しかし、やはり自らを通せば、どこかで誰かがなにかを失うのです。自分の命を守り、仲間の命を守れば、相手が命を落とし、その仲間たちはひとりの人を失うのです。戦争という状況の中で起こる、ひとつひとつの戦いはそうしたエゴのぶつかり合いです。
バナージは感受性が豊かなだけに、相手が何かを失うということに耐えられません。そのため、自暴自棄になりもするのです。しかし、砂漠という環境は生きることを放棄した人間には苦しいもので、バナージはそこでなにもなさずに死にきることはできず、生きることを目指します。そんな折に、ネオ・ジオンによるダカール侵攻作戦が始まります。
その侵攻作戦の要、ネオ・ジオンのMA《シャンブロ》は、しかし、当初のラプラス・プログラムの発動という目的を忘れ、連邦に対する私怨だけで市民の虐殺を始めます。バナージは同行するネオ・ジオンの艦の艦長、ジンネマンに《シャンブロ》の暴走を止めに行くことを進言します。しかし、ジンネマンは作戦だから、と動こうとはしません。そこでバナージが彼を説得するのです。
『「哀しいから……哀しくなくするために、人間は生きているんだって……。本気でそう言える人にだったら、人を殴る資格はあるよ。」「いまのあんたに、そんな資格はないんだ。」「自分で自分を騙して、わかったようなこと言って…自分が地獄を見たからって、他人にそれを押しつけていいてことはないんだ!」「わかりませんよ…」「奥さんや、子供を殺された人の痛み……。なにが正しくて、なにが間違ってるのかなんて……」「でもわからないからって……哀しいことが多すぎるからって……感じる心を、止めてしまってはだめなんだ」「おれは、人の哀しさを、哀しいと感じる心があるんだってことを、忘れたくない。それを受け止められる人間になりたいんです。」』
大人たちからいろいろなことを吸収したバナージは、彼なりの生き方を模索し、それを実現しようともがき始めたのです。上記のバナージの独白場面は個人的にはとても好きです。バナージの成長がもっとも分かりやすく描かれた場面ではないでしょうか。

事態の中で懸命に生きようと事態に抵抗しようとしてるバナ―ジがいる一方で、事態に飲み込まれそうになっているのが、リディという青年です。政治という状況、戦争という事態に飲み込まれていく彼は、それに対抗しようとしながらも、その強い流れによって流されていきます。
しかし、連邦の兵士として、《シャンブロ》の侵攻を目撃した彼は、バナージと同様に、自分のこころのままにその侵攻をとめようと試みます。リディの場合は、バナージとはことなり、侵攻をとめることは作戦の一部ですから、矛盾するところは少ないのですが、やはり作戦の一部に組み込まれてしまうことに違いはありません。そのなかで自分ができることを模索し、可変機《デルタ・プラス》での先行を提案するのです。それは事態に飲み込まれまいとする、彼なりの抵抗でしょう。

こうして、バナージとリディ、いつの間にか立場が大きく違ってしまった二人が、同じ意志をもって、《シャンブロ》を相手に共闘を始めるのです。このMA戦が本巻の最大の山場となります。その描写はスピード感があって、かなり格好よく書きあがっています。


バナージは《ユニコーン》を媒介にして、連邦ともジオンとも行動をともにし、さまざまな立場の人たちの姿を取り込みます。それがこれ以降の事態を超える力ともなるのでしょう。
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by nino84 | 2008-11-24 10:35 | 読書メモ