本の感想などをつらつらと。


by nino84
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

<   2006年 07月 ( 1 )   > この月の画像一覧

『失はれる物語』

『失はれる物語』(乙一、角川文庫)を読みました。

一月以上放置の末、また乙一さんの短編集です。ちなみに前回読んだ『きみにしか聞こえない CALLING YOU』の収録作品が含まれていたりします。多少の加筆・修正が加えられているのに気が付いて密かな優越感に浸ったのは内緒です。

さて、収録作品ですが、「CALLING YOU」、「失はれる物語」、「傷」、「手を握る泥棒の物語」、「しあわせは子猫のかたち」、「ボクの賢いパンツくん」、「マリアの指」、「ウソカノ」(収録順)の8篇となっています。ただし、文庫の形で初出の作品は「ボクの賢いパンツくん」、「ウソカノ」の2篇のみとなっています。

「CALLING YOU」
『きみにしか聞こえない CALLING YOU』(角川スニーカー文庫)の表題作だった作品です。この前の記事を参考にして下さい。多くは語りません。
ただし、作中に登場する雑誌が『週刊少年サンデー』(小学館)から『月刊少年エース』(角川書店)になりました。角川書店のあざとさが伝わってきます。ちなみに登場人物には「よんだことはありません…」といわれていました。


「失はれる物語」
男は事故に遭い、右手以外の全ての感覚を失った。光を見ることも、声を聞くこともできなかった。彼女の妻はそんな彼に彼の感覚の残る右手を鍵盤に見立てて演奏することにした。それが彼らの唯一の交流だった。
しかし、男は妻の演奏に暗さを見いだし、自分が重荷になっていると感じはじめ…

与えられるばかりで、与えてやれない苦しみ。男が戦っていたのはそういうものだろう。妻は彼に外の世界を与えてくれるのに、彼が妻に返してやれるのは、右手の指のほんの少しの動きだけ。
彼は間違いなく妻を想っていたし、妻も彼を想っていた。だからこそ、一方的に与えられるのを、また妻の苦しみを、苦痛と感じた。最終的に彼がくだした決断は、妻を想ってのことだ。たとえ自分勝手だろうとも、人が苦しむよりは自分が苦しむ方がいいという考え方だったのだろう。だが、それが妻の苦しみを和らげることになったのだろうか?決断の瞬間の妻の苦しみはとても大きなものだったろう。その後の数ヶ月もそうだ。しかし、その後の妻はどうだったのだろうか。彼のことをずっと想ったのだろうか?それとも忘れることができたのだろうか?これは答えの出ない問いだ。だから男のくだした決断は批判できるものではない。


「傷」
この作品も『きみにしか聞こえない CALLING YOU』(角川スニーカー文庫)に収録されていたものなので多くは語りません。もともとタイトルは「傷-KIZ/KIDS-」だったと記憶しています。


「手を握る泥棒の物語」
男は自分の時計を製品にしたくて元手がほしかった。そのときふと思い出したのは、たまたま近所の旅館に泊まっている伯母と、その鞄に入っていた現金とネックレスだ。男は伯母の鞄を手に入れようと旅館の壁に穴を開けて押入の中の鞄をとろうと手を入れた。
しかし彼がつかんだのは鞄ではなく女の子の手だった…

コミカルな感じでちょっとした感動も味わえるいかにも乙一さんらしい作品です。手をつかんだまま繰り広げられる会話は脱線に脱線を繰り返して互いの人生相談の様相を呈してきます。顔も見えない、しかも盗もうとする人と盗まれまいとする人という関係なのにもかかわらず、である。
ちなみにオチもなかなか秀逸です。まぁ、先は読めると言えば読めるんですが、予定調和もいいものです。


「しあわせは猫のかたち」
ぼくは大学入学に合わせて一人暮らしを始めた。この家はどうやら殺人の舞台となった場所らしいと聞いた。そのためだろうか、勝手にテレビがついていたり、ものの位置がかわったり、なにかと不思議なことが起こる。部屋に閉じこもりたかったぼくとしてははたはた迷惑な話だ。だがそれも嫌な感じはしなかった。
前の住民とその飼い猫、そしてぼく。二人と一匹の暮らしはずっと続くかと想われたのだが…

「手を握る…」もそうでしたが、乙一さんは実際にあると怖そうな話を軽妙にかくのが上手いですよね。それにしても以前に感想を書いたような気がするのですが、どうだったでしょう。ちなみに、「ひきこもりに対する激励である」みたいなことを書いた気がします。今回もあまり印象は変わっていません。


「ボクの賢いパンツくん」
ボクのパンツはボクをいつも助けてくれる特別な喋るパンツだ。パンツくんのおかげでおねしょもしなくなったし、知識だって増えた。だけどずっと一緒にはいられないんだ…

もともと某プレゼント用「トランクス」に印刷した文章だそうです。…なんだそれ。
ブリーフの話をトランクスに印刷って一体?と思っていたら、オチがそれなりにオチていた。そんな感じの作品。いや、感想といわれても…。


「マリアの指」
姉の友だち鳴海マリアが自殺したと聞いた。陸橋から飛び降りて電車に轢かれたらしい。彼女が死んでしばらくして、彼女がかわいがっていた白い野良猫が、彼女の指をくわえて僕の前にあらわれた。その指には不自然な痕跡があって、僕は彼女の自殺を疑い始める…

この作品だけすこし他の作品と毛色が異なります。どこか『GOTH』(角川文庫)を思い起こさせる作品となっています。
本来こういう作品も嫌いではないのですが、今の気分ではあまり好きになれません。「手を握る…」とかのほうがよほど今の気分に合います。完全に気分の問題にしてしまっていますね。それでも今更ながらに、読書はそういうものなんだと思いますよ。


「ウソカノ」
僕には彼女がいる…ことになっている。実際にはいない。それは空想上の彼女、ウソカノなのだ。僕は彼女が存在するように振るまい、ウソにウソを重ねていった。ウソを現実のものにするために、ウソがばれないように努力もした。
ある日、友人の彼女がウソカノだとばれた。僕は自分の彼女もウソカノだとばれるのではないかと恐れを抱く…

ウソをウソだと思わせないためにでも、目標を持って努力することが大切、というお話。でいいのだろうか?自尊心を保つ方法は人それぞれあると思うので、個人的にはそれでもいいと思います。ただそれがばれたときのことは考えておくべきだとも思いますが。
[PR]
by nino84 | 2006-07-29 12:10 | 読書メモ