本の感想などをつらつらと。


by nino84
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「芋虫」

「芋虫」(江戸川乱歩、『江戸川乱歩傑作選』新潮文庫収録)を読みました。

須永中尉は戦争で大きな怪我を負った。そして、彼はその怪我によって、妻である時子なくしては生きていけない体になってしまっている。一方、時子は夫である須永中尉を献身的に看病しているというので、まわりから褒めそやされてはいるものの、内心ではそれを素直に受け入れられないでいた。
ある日、時子はその偽善に耐えられなくなり、我を忘れ、夫の唯一の感覚器であった目をつぶしてしまう。彼女は夫にわびるのだが、彼は「ユルス」という書き置きを残して自室から消えていた…



今までの作品よりも、随分キツイ作品になっています。ラストの中尉の姿を想像すると、とても怖い。
彼の心はどこまでも妻を愛し、感謝し、とても人間らしいものである。しかし、その姿の描写が強烈すぎて、彼の心を忘れてしまうくらいのものであった。

中尉は、戦争で傷を負ったということになっているのだが、現代ではそれを想像するよりも、別のプロセスで同じ結果になっているのを想像する方が易しい。端的に言えば、先天性の障害、事故による障害といったものである。
そうした状況にある彼らを、僕は人間としてみようとしている。もちろん、そうみていくべきであるとも思っている。
しかし、本当の極限状態にあって、僕は彼らを人間として捉えることができるのだろうか?僕は、彼らの努力している姿をこそ、どこか一歩ひいてみているのではないか、とふと思うのである。
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by nino84 | 2006-08-31 16:38 | 読書メモ

「鏡地獄」

「鏡地獄」(江戸川乱歩、『江戸川乱歩傑作選』新潮文庫収録)を読みました。

私の友だちに凹面鏡に取憑かれてしまった人がおりました。彼は幼い頃から魔鏡などの鏡に興味を持っていたらしいのですが、中学を卒業してからというもの、その傾向がさらに強まって、家に特別にしつらえた実験室に閉じこもって妙な実験を繰り返すようになっていったのです。
そんな生活は、元来病弱な彼をさらに病的にしていきまして、ある日とうとう…



研究職というのは、どこかで浮世離れしていくことがあるから気をつけましょうね、というお話でしょうか。

ここまで病的にハマってしまうことはないでしょうが、研究者はどこかこういう部分があるんでしょうね。特定のことしか頭になくなってしまう。好きこそものの上手なれ、とはいうものの、あまりに近視眼的になりすぎるのは怖いですね。
この作品は、その怖さを増幅して書いたもののように見えます。

それにしても、確かに「彼」が最後にみたものは、気になります。ただ、多くの人はただ「気になる」で終わって、実際にやってみようとは思わないでしょうが。
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by nino84 | 2006-08-30 22:28 | 読書メモ

「人間椅子」

「人間椅子」(江戸川乱歩、『江戸川乱歩傑作選』新潮文庫収録)を読みました。

外交官の妻であり、作家である良子は、ある日、一通の封書を受け取る。それには原稿用紙の束が入っていたのだが、表題はなく、手紙のような体裁をなしているものであった。
そして、その原稿に書かれていたのは、何とも奇妙な性質を持った男の話であったのである…



今更ですけど、『江戸川乱歩傑作選』は構成として推理→怪奇というようにだんだん作品のジャンルを遷しているみたいですね。この辺りまでくると完全に怪奇小説の類になっています。「二銭銅貨」が懐かしいです。

さて、この作品ですが、「こういうことはあり得るよね」ともっともらしく書いた作品ですね。もしそれを実行したとしても、どこかで気づくであろう、と思います。それでも、確かに暗に自分がどこにいるかを提示されながらだと、恐ろしくはありますね。僕の部屋にはソファーはありませんが、そういう所にもいるかもしれない、ということを読後に残すことができるのですし。

それにしても、乱歩さんはスカすのがすきなのですか、やられた!という感じがする一方で、またこのパターンか!と思う自分がいるのですが。そんなに彼の作品を読んでいるわけではないで、大きく一般化するのははばかられるのですが、今の僕の感じとして、そんな印象を受けます。
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by nino84 | 2006-08-27 16:55 | 読書メモ
『機動戦士Zガンダム3 星の鼓動は愛』を観ました。

宇宙世紀0087、当初ティターンズとエゥーゴの内戦だったはずの争いは、木星帰りの男シロッコの参戦、さらには一年戦争で破れたジオンの残党とその指揮を執るハマーンの出現によって、混迷の度を増すばかりであった。
シロッコはティターンズにつき、ハマーンの動き如何で、戦況が決まりかねない事態を迎えたエゥーゴは、ハマーンらジオンの残党との交渉の末、彼女らと一時的に協力しあうことを確認する。それでも事態の終わりは見えない…



祝、DVD発売。
映画館にも観にいったのですが、戦局の変化に理解が追いつかないという混乱をきたして、感想を書くどころではなかったので、DVDで観なおしてこうして感想を書いています。

ティターンズ、エゥーゴ、アクシズ、ジュピトリスとそれぞれの陣営が最終的な勝者になるためにいろいろと政治的に手を尽くしてくる序盤から中盤にかけてのやり取りは、本当によくまとまっているなと感心します。
ティターンズは地球圏での実権を握るために、ジュピトリスを取り込み、そのうえでアクシズも引き込めればよいと考える。ジュピトリスはティターンズについてティターンズ自体の乗っ取りを考える。エゥーゴは打倒ティターンズが基本的な目的ではあるものの、その達成のためには戦力が足らないからアクシズに交渉を申し込むしかない。一番の傍観者となっていたアクシズはザビ家とジオン国の復興を目的とするから、それを条件にして各陣営と交渉をし、参戦するならばできるかぎり有利な条件のもとで動きたい。
しかも現在のパワーバランスが崩れればまた各陣営が独自に動き出す気配を見せるから、大混乱である。

また、こうした大局的な動きの他に、この作品が群像劇という性格をもっているから、人の感情や、成長も描いていくことになる。なんとも要素が多い。
そんななかで、カミーユが確実に成長しているのを確認できることはすごいことである。開戦当初、親を人質に取られたことに逆上して動いていたカミーユが同じようなことをしているカツを説得する。その行動に違和感がない。
それだけの経験をカミーユはしてきてるわけで、自分の感情と戦局は別物だと言うことを理解できるだけの分別、あるいは割り切りなのかも知れないが、ができるようになってきていた。この点に関しては今作のなかでも彼は成長しているように思う。同僚の戦死であったり、裏切りであったり、そうしたことも経験してそれが彼をまた成長させている。
こうした要素を限られた枠の中で同時に描くことができるのはなかなかないだろうと思う。それがこの作品のすごい所なのだろう。


いずれにしても、今回はずっと戦闘してましたね。序盤の権謀術数を用いた交渉ごとがとても長いイメージがあったんですが、なし崩し的に大規模戦闘になっていくので、ずっと戦っている印象が強いですね。
カミーユたちパイロットがゆっくりしている場面はケーキ食べてた時くらいじゃないでしょうか、あとはずっとなんかやってるって感じでした。テレビ版を観たうえで、2度目の映画版だったのでそれなりについていけた気でいるのですが、一見さんには状況の推移が忙しすぎてハードルが高いとも思えます。


ちなみに、映画が公開されるたびに問題になる旧作画と新作画の切り替えですが、なんかもう慣れました。全く問題ありません。


最後に余談ですが、ラストシーンのサエグサ役割が面白かった。初めて観たとき突然なにを言い出すのかと思ってしまいましたが。
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by nino84 | 2006-08-26 14:33 | 視聴メモ

「屋根裏の散歩者」

「屋根裏の散歩者」(江戸川乱歩、『江戸川乱歩傑作選』新潮文庫収録)を読みました。

郷田三郎は何をやっても面白みを感じなかった。彼は、頻繁に家を代えたりもしているのだが、それも退屈しのぎの一端である。
さて、今度彼が越してきたのは東栄館という新築の下宿屋であった。ある時、彼は自室の押入の天井から上手い具合に天井裏へ抜けられることを知る。その日から、彼の屋根裏散歩が始まる…



久しぶりに、映画の感想を書いて、また乱歩に戻ってきました。ちなみに、『江戸川乱歩傑作選』はコレを含めてあと4編です。なかなか多い。傑作選だけあって、内容も濃いので、面白いです。が、ふと気づくと少年探偵団や怪人二十面相は出てこないですね。

閑話休題。この作品も、明智小五郎が登場します。ただ、この作品では落ちをつけるためだけに存在しますので、あまり大きな扱いはされていません。あくまで主人公は郷田三郎です。
郷田三郎も「赤い部屋」の登場人物と同じように、何に対しても興味を覚えられない人です。この作品では、「赤い部屋」に比べて、犯罪に手を染めるまでの過程が段階を踏んで丁寧に書いてあります。
終盤までの展開は「赤い部屋」よりも面白く読めました。郷田が、一般人に近いところから徐々に変化していき、何かをなした後もより人間的な反応(と思えるもの)をしているからでしょう。ただ、オチに関しては、深層心理を絡めて書いてあり、どこかしっくりしませんでした。
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by nino84 | 2006-08-25 23:42 | 読書メモ
『時をかける少女』を観ました。

記事をほぼ書き終えたところで、PCがフリーズしました。導入部分をまとめる気力が消え失せました。代わりに公式HPで勘弁して下さい。小説を下に敷いているということで、特に序盤は同じような流れです。
それでも簡単に説明すると、理科実験室で物音を聞いて、その原因を探る途中で何かが起きる。で、その後で事故にあってまさに死ぬ、という瞬間に気がつくと別の場所にいる…なぜ?という感じでしょうか。

序盤はかなり軽いノリで作られているのですが、主人公である真琴がタイムリープでできることと、その限界を知ることで、話が終盤に向けてシリアスになっている。うまく流れに乗ることができて、引き込まれていく感じでした。
観たあとに、なんだか恋がしたくなりました。ただ、僕の冷静な部分が、20歳すぎて恋に恋をしてるのはどうなのか、と訴えていました。


Time waits for no one. 時はだれも待ってくれない。だからこそ、思い立ったが吉日。でも、それを気づくのが難しい。だから、( ゜Д゜)ハァ?とか言える。
でも、真琴は普通とは違う形で時間と向き合ってきたから、それが痛いほどよく分かる。タイムリープで過去に行くことができる、つまり時間の一回性が否定できうる、そういう立場にいたのに、それでも、いやだからこそ、時の大切さを感じる。
真琴の視点で見ている僕も、それを感じることができたように思います。で、だからこそ、いま(すぐにでも)、会いにゆきます。という気分にさせる。


以下すこしネタバレしていますので、読む際はご注意を(上でもしてるじゃないかといわれると困りますが)。

小説とのリンクも多少してあって、そのあたりは原作を読んでいたからこそ楽しめました。映画の中で、『時をかける少女<新装版>』の表紙に使われているのと同じ絵(というか…)が使われていたりします。ってか、そのつながりで、芳山という名字の意味が分かる原作既読者は問題ないですが、原作を読んだことのない人が、突然タイムリープのことを話し始めるこの魔女おばさんをどう思うかが少し気になります。
ちょっとつかみ所のない人、という性格づけはしてるみたいだったので、そういう人なのかな、で終わるのでしょうか?

あと、細かい話ですが、劇中の話を聞いている限り、タイムリープの設定は変わっているように思います。タイムリープの設定はもちろんですが、それをとりまくルールも多少違っているようです。そういうのはありなんだろうか。そもそも芳山さんはなぜ原作で失ったはずの記憶を持っているのか…。
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by nino84 | 2006-08-24 23:59 | 視聴メモ

「赤い部屋」

「赤い部屋」(江戸川乱歩、『江戸川乱歩傑作選』新潮文庫収録)を読みました。

7人の男が「赤い部屋」にいた。今夜の話し手は、その中の一人、T氏であった。
世の中のすべてに退屈したT氏は、ある方法で自分がなんら罰を受けることなく、人を殺す方法を思い立つ。彼は今日までに99人を殺しており、100人目は自分を殺すと言うが…


完全犯罪といっても、ある特定の場面において、こちらの働きかけに対して、たまたま相手がある行動をしなければならないというかなり限られた状況のものです。ただ人を殺すことを目的としており、なんともえげつない感じです。
…が、最後は上手くスカされて終わってました。

禁止されているからこそ、あえてそれをやることが快楽となり、喜びを見いだしうる。もっとも強く規制されているものに関しては、規制が強く働くことが多い。
法律に反するのは相当の意志の強さを必要とするが、社会的規範はどうだろうか。これは法律に比べれば簡単に反しうる。まずはそこから反逆する。しかし、それになれてしまうと、その反訳の行為がエスカレートしていく。軽犯罪を犯し、次々と規模を大きくしていき、最終的にたどり着くのが、殺人。
では、それにさえ飽きたら?
つまらない世界から逃れるため、また最も規範をはずれた行為として、自分を殺すだけだろう。

ただ、作品の最後に上手くスカされたように、規範に反する以外にも楽しみはありうるはずで、それを見つける努力をしなくてはいけない。規範に反し続けると、ふと正気になったときに、なんともいえない虚しさを感じることになるように思う。
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by nino84 | 2006-08-23 18:36 | 読書メモ

「心理試験」

「心理試験」(江戸川乱歩、『江戸川乱歩傑作選』新潮文庫収録)を読みました。

蕗屋清一郎は綿密な計画の末に、老婆を殺した。お金がほしかったのだ。
事件は証拠に乏しく、犯人を特定しかねていたため、警察は被疑者に対して心理試験を行うことを決めた。蕗屋はそのことを知り、対策をたて、試験に臨んだ。試験の結果に怪しいところはないように見えたのだが…



お金を貯め込むことが生き甲斐である老婆をお金を持っていない青年が、そのお金を有効利用することができる、として殺す。蕗屋の老婆を殺す動機ですが、『罪と罰』を思い出しました。結末は違うので、ただそれだけのことですが。

さて、この作品には「D坂の殺人事件」につづき、明智小五郎が登場します。が、彼がどうこうというよりも、心理試験を使った小説だというので、なかなか興味深い。
刺激語に対する反応時間を見て、それで深層心理を探る、というもののようです。真剣にやろうと思ったら、犯罪に関係ある単語とそれ以外の単語、それぞれで反応時間の平均を出して差があるかを検定するのだろうか…。あれ、でもそれじゃあ、個々の記録は見えないですね。集団の傾向が見えるだけなので。ということは、あれで正しいのか。
むしろ、質が重要視されているようなので、そんなことまでしないのかも知れませんね。ただ、刺激語が無数にあるので、ダミーの単語の質まで分析するとなると大変な作業量で現実的でない気がします。
といいながら、小説なのでかなり刺激語が絞られてるという現実。そうでなければ結論に達するまでのプロセスが無駄に長くなるので仕方ないですね。

印象としては少しアイデア倒れかなとも思います。
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by nino84 | 2006-08-22 23:57 | 読書メモ

「D坂の殺人事件」

「D坂の殺人事件」(江戸川乱歩、『江戸川乱歩傑作選』新潮文庫収録)を読みました。

9月初旬のある晩、私はD坂の通りの中ほどにある喫茶店にいた。目的はといえば、向かいの古本屋の評判の女房を見ることだった。しかし、彼女はなかなか出てこない。しかもだれも店番をしている様子もない。
変なこともあるものだ等と思っていると、丁度彼女の幼なじみだという明智小五郎がやってきた。店の様子がどうもおかしいというので、ふたりで店を訪れると、そこには絞殺された女房がいた。果たしてだれが、どうやってこの犯行をやってのけたのか…?



何考えてるか分からない感じの探偵、明智小五郎登場。
それにしても、どうして探偵小説に出てくる探偵は浮世離れしすぎてるか、浮き世にどっぷり浸かってるかしかないんでしょうか。たしかに普通のオッサンが突然事件を解決しても違和感がありますが…

さて、それはそれとして、事件としては密室殺人のようなものになっています。犯行を行った犯人は、逃げ道もないのに、どこに消えたんだ?というやつです。ただし、前後の通りに人を配置して、逃げ道を消すという形で密室が成立しており、一般的に想像される「鍵が掛かっている密室」とは少し違います。
で、そうなると、もうすこし店の並びやら裏の路地の配置やらを詳しく書いてくれないことには、読者が推理を展開するには手づまりな気もしますが、どうなのでしょう。伏線は張られてるんだけれど、それもやっぱり店の並びと路地の配置がネックになってくる訳で…。
とはいえ、トリックとその殺人の契機がメインであるならば、それでも良いと思えます。
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by nino84 | 2006-08-21 17:13 | 読書メモ

「二癈人」

「二癈人」(江戸川乱歩、『江戸川乱歩傑作選』新潮文庫収録)を読みました。

井原と斎藤は温泉場で出会って、すぐに意気投合した。斎藤は戦争で顔に傷を負い、行く末を見つけられない…。井原もまた心に傷を負い、行く末を見つけられない。
斎藤の話を聞いた井原は、かつて自分が体験した事件の顛末を語り始める…



途中でふと疑問に思っていると、それがとりあえずの答えだったりした。
ただ、その後にやっぱりオチがあって、それが絶妙。最後2行の井原の感情が、いっそ清々しい感じで吹っ切れていて印象的。

素晴らしいマジックはもちろん感動するけれど、あまりに見事だと犯罪だって感心の対象になってしまう。もちろん現実にそんなことはあってはいけないのだけれど、どこぞのテレビでやっているような詐欺師の手口などは、そんなことまでするのか、と思うことはあろう。
それを思うことがいいとか悪いではなくて、人にはそのように感じてしまうことがある、ということを描いているのだろう。

もちろん何かを仕掛ける方は、それが素晴らしかったらやってもいいということにはなりませんよ。それじゃあ、完全に愉快犯です。
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by nino84 | 2006-08-20 20:13 | 読書メモ