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本の感想などをつらつらと。


by nino84
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「盲腸」

「盲腸」(安部公房、『R62号の発明・鉛の卵』新潮文庫収録)を読みました。

Kは新学説の実験台となり、自分の盲腸の後に羊の盲腸を移植した。それで藁が食べられるようになり、食糧問題が解決すると考えられたからだ。
その考え方は分かるのだが、Kはそれにどこか納得できずにいた…



手術の末、Kはこの世でただ一人、藁を食べることができる人間になった。
研究者は、もちろんそれができるであろうことを予期して実験を行っているわけだが、彼らは食が変わってしまったKをもはや普通の人間と同じものだと考えることができなくなっていた。そもそも、研究者にとってKは実験体であって、すでにKという個ではなく、もっと大きなもの―政治や革命―の一部を担うものなのである。
一方、Kとしては人間のままでいるつもりであった。しかし、まわりの反応が自分を人間だと見ていなければ釈然としない。「猿の群れの中で、はじめて人間になったものは、いったいどんな気持ちがしただろうか」と考えたくもなるだろう。
さらにKは食べ物自体が変わることで、その性格が変わっていく。簡単にはかみ切れず、消化も悪い藁のみを食べていれば、あごがそれを食べるための適応をし、その人はまさに羊のようになってもおかしくはないと思える。

目に見えない部分である腸を入れ替えるだけで、人の扱いが変わり、当人自身も変わってしまう。この実験はまさに「単に肉体の問題だけではなく、思想の問題でもあった」といえる。肉体と思想、身体と精神の関係はそれほどまでに強いものであると指摘している。
by nino84 | 2006-10-11 18:22 | 読書メモ