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本の感想などをつらつらと。


by nino84
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「二階扉をつけてください」

「二階扉をつけてください」(三崎亜記,『バスジャック』集英社文庫収録)を読みました.

妻が留守の折,近所のおばさんから「二階扉」をつけるようにとのお達しをうけた.回覧板では通知があったそうだが,そう言われても,なにやら分からない.とはいえ,近所を見渡してみれば確かに二階に扉がついている.あまりに自然すぎて,ずっと前からそこにあったみたいだ.
私はとりあえず,近所の工務店に電話を掛けてみることにした.


ドストエフスキーからの流れに一貫性がありませんが,読書をしたいということだけは確からしい.そんなわけで,『となり町戦争』の三崎さんの短編です.ちなみに,本作が収録されている『バスジャック』は,全7編を収録している短編集となっています.

さて,本作ですが,文体としては『となり町戦争』同様,非常に軽いです.そもそもタイトルからして良くわからない本作ですが,コメディー的なノリの軽さで話が展開していくため,文体もあいまって,非常に読みやすい作品になっています.
主人公の「私」はある日,突然,二階扉なるものの存在を知らされ,設置するように言われます.回覧板で設置が推し進められるくらいですから,周りはもちろん設置が進んでいます.郷に入らば郷に従え.長いものには巻かれろ.近所付き合いを円滑に進めるためには,なにはともあれ二階扉をつけなければなりません.「私」は何も分からないままに設置の準備を進めていきます.
意味も分からず,動いている「私」と同様にやはり読者も二階扉の意味は分からず,「私」と一緒にそれを知ることになります.そもそも回覧板をみていればすべて解決できたのですが,会社員の私にそんな余裕はありません.そのために,作品全体を通して,「私」と読者とが一体となりやすく,ネタとしては面白い作品かと思います.

ただ,そうした面白さだけで,作品が成立しているのではないため―主にオチについてですが―,しっくり落ち着けられませんでした.『となり町戦争』が-後日談もふくめて―よかっただけに,期待していた部分が大きかったのかもしれません.『となり町戦争』は全体としてはシリアスな長編ですから,やはり本作のような短編で,コメディ色の強いものとは違うのでしょう.
短編集の一作目ですから,これ以降の作品への態度もこれで決めてしまいました.大方あっていたと思います.さらっと暇つぶしに読むような作品群だったかな,と思いました.
by nino84 | 2008-11-27 01:00 | 読書メモ